座法について(前編)

猫背のバレリーナを見た事のある人はいるだろうか?
私は見た事が無いし、 恐らく一流のバレリーナに猫背の人はいないハズである。 何故ならば猫背だと美しく見えないだけでなく、 体のバランスが取り難い為細かい部分まで力が入らず、 どうしても体の動きが鈍重になってしまうからである。 バレエに限らず、 書道や茶道、 或いは武術等でも、 作業を行う時の姿勢というものは重要視される。
それは魔術も例外ではない。
この章では魔術作業時における姿勢、 特に瞑想時における「座法」について考察する。

まずは基本原則を述べておこう。
魔術作業中は背骨が真っすぐ伸びる様な姿勢を取る事
例外はあるが、 この原則を崩す事は滅多に無い。
よって魔術を行う者はだらしない姿勢をとらぬ様に!!!

この原則を守る事によって、 多くの武術や神秘体系で利用されている背骨周辺の中枢を利用した様々なテクニックを使う事が出来る。 また、 一本の棒に圧力をかけた時に圧力に対して棒を垂直に立てて支えた状態が一番安定である様に、 この姿勢は、 首や肩そして腰の重力による負担が最も軽くなる姿勢でもあるのだ。

前章で考察した様なリラクゼーションを上記の原則と共に実現出来るのであれば、 基本的に方法は何でも構わない。 武術やバレエを訓練している人はその応用で出来る事かもしれないし、 或いはアレクサンダー・テクニックなんかを使ってみるのも良いかもしれない。
勿論魔術における伝統的なリラクゼーションのやり方もその原則を前提としているが、 市販の魔術入門書に詳しく書いてあるのでその詳細についてはここでは触れない。

魔術作業において多く用いられる姿勢は、 おおまかに言って次の3つである。

  1. 仰臥

    仰向けに寝た状態。
    「何だ、結局寝るんじゃないか!」と言う事なかれ。
    背骨は伸びるし余計な力が必要無いので、 特にリラクゼーションの訓練には最適なのである。
    また 「疲れて何もしたくないが魔術訓練をしなきゃなぁー」 という気分の時に大変便利な姿勢でもある。
    勿論、作業中に寝てしまう危険性が最も高い姿勢である。

  2. 神の立位

    所謂 「気を付け」 の姿勢。 ただしつま先は揃える。 儀式等で何もしていない時の姿勢は大概コレになる。

  3. 神の座位

    エジプトのファラオの座像が取っているポーズ。 爪先を揃えて座り、 背筋を伸ばして両手を膝の上に置く。 特に瞑想の際に用いられる。

    適度に低くて硬い椅子に座わらないと安定した姿勢を保ち難い。

基本的には1の姿勢を90度回転して直立させれば2になり、 上半身はそのままの姿勢で椅子に座れば3になるハズなのだが、 世の中の多くの人はマトモに「気を付け」が出来ないので少々説明の必要がある。

まずは立った状態で1の姿勢を再現してみよう。 凸凹の無い壁、 或いは柱の前に、 身長を計る時の要領で踵と後頭部を付けて立つのだ。

踵と後頭部以外壁に着かない人、貴方はお腹が出過ぎです。
首がやたら窮屈に感じられる人、貴方は猫背ですね。

さて次は、 足の位置を動かさずに体の背面部を出来るだけ壁に接触させるのだ。 目は正面を向いてアゴはやや引き気味に、 両肩を心持ち前に落としつつ胸を張り、 内股を引き締めつつ膝を伸ばす。 更に、 ふくらはぎ、 腿の裏、 殿部、 背中・・・ 個人差はあるだろうが、 出来るだけ多くの部分が壁に接触する様に背骨を伸ばしてみよう。

これは慣れない人にとってはかなり苦しい。 形だけ見れば1の姿勢と同じなのだが、 重力の方向が違う分、 姿勢を保つ筋肉の使い方が違ってくるからなのだ。 特に胃の後ろ側を壁に付ける為には下腹 (所謂(下)丹田、或いはマニプーラ・チャクラがある部分) を締める様な力が入っていないといけない。 この姿勢を取った状態で、 家族にヘソと生殖器の中間の部分を軽く押して貰うと感じが分かると思う。 これを意識すると、ぐっ、と背骨が伸びる。

さて、1の姿勢は立った状態で再現された。
これをどの様に2そして3の姿勢、 特に「神の座法」につなげて行くのかを後編で説明しよう。

(後編に続く)


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