リラクゼーションについて

魔術は、まずそれを行う術者の精神や主観に影響を与える、 という事は別の所で説明した。
しかし人間というものは厄介なもので、 人間の精神状態や感受性はその基盤である肉体の状態に大きく影響される。 例えば、 高原をピクニックしている時に微風に頬をなでられると心地好い気分になるが、 内股気味になりながら必死にトイレに駆け込む時には微風がその様な感慨を生む事はまず無い。

従って、 微妙な精神操作の要求される魔術作業を行う前に、 まず肉体を整えなければならない。 トイレは魔術作業に入る前に済ませておく事にしておいても、 それ以外にも不必要な肉体緊張を取り除いておかないと集中が乱れたり微妙な感覚が分かり難かったりする事がある。
従って肉体から発せられる精神的雑音を減らす為に、 要するに「気が散る」のを防ぐ為に、 魔術作業の前段階としてリラクゼーションの作業があるのである。

ではリラクゼーションとは何か?
要するにリラックスする事、 くつろぐ事である。
といってもここで言っている 「くつろぐ」 というのがどういう事か、 分かっている人は案外少ないと思う。
何故ならここで言っている 「くつろぎ」 とは通常使われる様な 「寝転んで鼻糞をほじりながらぼーっとテレビを見る」 という意味での 「くつろぎ」 では無いからなのだ。

まずは論より証拠、 百聞は一見にしかず、 という事で、 実際にリラクゼーションの感覚を体験してみよう。

時間は夕食後が良い。 時間がかかるかもしれないので歯磨き等の雑用は全て済ましておこう。 服装は体を締め付けない楽なもの、 寝巻きなんかが良いだろう。 場所は横になって寝るだけの広さがあれば良い。 冷えるといけないので布団の中に入っていた方が良いかもしれない。

さて、それでは横になって。

この時点では姿勢がどうだとか難しい事を考えなくても良い。 自分の好きな姿勢を取れば良い。 目は瞑った方が楽だろう。 魔術がどーたらこーたらといった小難しい話はひとまず忘れて楽しい事だけ考えよう。 そして最期に、 この体験実験が上手く行く様に魔法の呪文を唱えよう。
おやすみなさい
実験が上手く行けば、貴方は朝を迎えているハズだ。

「これの何処が実験なんだ!」とお怒りの方もいるかもしれない。
そう、 何も特別な事は無い。 魔術で求められるリラクゼーションとは肉体が半分眠った状態なのである。 もしも上記の実験を試された方は、 眠りにつく前の「うとうと」した状態を、 その心地好い感覚を覚えておいて欲しい。

「なんだ、それなら俺は仕事中に何時もリラックスしてるぜ!」
という人もいるであろう。 そう、貴方にはリラクゼーションの才能があるのだ! (仕事は?

しかし、完全に眠ってしまっては魔術儀式はおろか瞑想も出来ない。
また上記の実験を行った人の中には、 朝起きた時に首が痛くなっている人もいるかもしれない。 それは魔術の守護神であるホルス神が魔術作業中に妙な姿勢をしている者に下す神罰であり、 日本語で「寝違え」と呼ばれるものである。
これらの弊害を避ける為には、 魔術を行う際の「姿勢」についても併せて考察する必要がある。

という訳で、次章では座法について解説しよう。

(次章に続く)


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