Liber LXV: IV


/ Introduction / I / II/ III / IV / V /

IV

  1. おお水晶の心臓よ! 「蛇」たる我は汝を抱きしめ、 我の頭を「汝」の中心の核に打ち込むのだ、 おお我が愛する神よ。
  2. ミテレーネのうなる風が吹きつける高台で神に似た女が竪琴を捨てるまさにその時、 光背として彼女の燃える髪の毛をまとい、 創造の濡れた心臓へと突っこむのだ、 そう我も、 おお「主」たる我が神よ。
  3. 花々の燃える、 その堕落の心臓の中には言い表し得ぬ美しさがある。
  4. ああ我を! しかし「汝」の喜びの渇きがこの喉を枯らすので、 我は歌う事が出来ぬ。
  5. 我は自らを我が舌の小さな船にし、 そして未知の河川を探検するのだ。 それは永遠の塩が甘くなり得る事かもしれず、 そして我が命が最早渇望しなくなる事かもしれぬ。
  6. おお汝等の欲望の塩水を飲む者達よ、 汝等狂気に近き者共よ! 汝等の責め苦は飲む程に増すが、 それでも汝等は飲むのだ。 幾多の入り江を通り抜けて真水の所へ来るのだ、 我は接吻と共に汝等を迎えよう。
  7. 雌牛の胃に見つかる結石、 我が恋人の中の恋人もその様なもの。
  8. おお可愛い坊や! ここの我に「汝」の涼しげな両腕を差しのべておくれ! かの果樹園で我らはしばしの間、 太陽が降りるまで座っていよう! 涼しい草の上で祝宴を開くのだ! ワインを持って来い、 汝等奴隷共よ、 我が坊やの頬は赤く染まるであろう。
  9. 不死の接吻の園で、 おお汝きらめく「一者」よ、 前へと輝け! 汝の口を阿片のにせよ、 一つの接吻は無限の眠りの鍵であって輝けるもの、 「シ・ロウ・アム」の眠りなり。
  10. 我が眠りにおいて我は 「宇宙」 を染み一つ無い透明な水晶の如く見るのだ。
  11. 居酒屋のドアの所に立ってワイン飲みの自慢をぺらぺらと喋る財布だけは立派な文無し者共が居る。
  12. 居酒屋のドアの所に立って客達をののしる財布だけは立派な文無し者共が居る。
  13. 庭園にある真珠の母のソファーの上で客達はいちゃつくが、 愚か者共の雑音は彼達からは隠される。
  14. ただ居酒屋の主だけが、 王の恩恵が彼から失われる事を恐れるものなり。
  15. それ故、「最も聖なる者の祭壇」 の下にある 「聖なる家の聖なる場所」にある黒く深い溜め池のその上方にある星の光の中で彼達が共にたわむれていた時、 「首領」V.V.V.V.V. は彼の「神」たる「アドナイ」に語りかけた。
  16. しかし「アドナイ」は笑い、 そして更に物憂げにたわむれた。
  17. その時筆記者は記録を取り、 そして喜びを得た。 しかし「アドナイ」には かの「魔術師」やその演技への恐れは無かった。
    何故なら「魔術師」にその全てのタネを教えたのは「アドナイ」だからだ。
  18. そして「首領」は 「魔術師」 の演技を見に行った。 「魔術師」 が笑った時、彼も笑った、他の皆がそうする様に。
  19. そして「アドナイ」は言った。 「汝は 「魔術師」 の蜘蛛の巣にに陥っておる」と。 「彼」はこれをそっと語った、彼を試す為に。
  20. しかし「首領」は 「頭領」 の合図を行い、 そして「彼」の上で再び笑った。 おお主よ、 おお愛する者よ、 その指達は「汝」の巻毛の上でくつろいでいるのか、 さもなくばその両眼は「汝」の目とは別の方を向いたのか?
  21. そして「アドナイ」は彼に更なる喜びを与えた。
  22. 然り、おお我があるじよ、汝は愛される者達の中の「愛される者」。 「ベンヌ鳥」は無駄にフィライに置かれてはおらぬ。
  23. アハトールの女司祭だった我は貴方の愛に再び加わるのだ。 起き上がれ、 おお「ナイルの神よ」、 そして「天の雌牛」の聖なる場所をむさぼり喰らうのだ。 ナイルに住まうセベックによりて星々のミルクは飲み干されるがよい。
  24. 鎌首をもたげよ、 おお蛇たるアペプよ、 汝は「アドナイ」、愛されし者! 汝は我が愛しい人にして我が主なり、 そして「汝」の毒は「神々」の母たるイシスの接吻より甘い!
  25. そして「汝」は「彼」なれば! 然り、 「汝」はアシアサール、 そしてプターの子供達を飲み込むであろう。 汝は「魔術師」の業を打ち破らんが為に毒の洪水を流出させるのだ。
    「破壊者」のみが「汝」を喰らい尽くすのだ。 「汝」は彼の喉で黒くなり、 彼の霊はその中にとどまるのだ。 ああ、 蛇たるアペプよ、 しかし我は「汝」を愛す!
  26. 我が「神」よ! 汝の秘密の牙に 「ホール・ラーの復讐の日」 まで我が持ち続ける秘密の小さな骨の髄を貫かせるのだ。 「ケフ・ラー」にその虫たる羽音を響かせるのだ! 「昼と夜」のジャッカル達に「時」の荒野で吠えさせるのだ! 「宇宙の塔」をよろめかせ、 番人達を追い散らすのだ! 我が「主」は力強き蛇として「彼自身」を現すので、 我が心臓は「彼」の体の血となるのだ。
  27. 我は恋の病にかかったコリントの娼婦の様だ。 我は王や将達をもて遊び、 彼達を我が奴隷にしてきた。 今、我は小さな死の毒蛇の奴隷、 そして誰が我等が恋を奪えるであろうか?
  28. 筆記者は語りたり 「うんざりだ、もううんざりだ! 誰が我を我があるじの「掲挙」の場所へと導いてくれるのだ?」
  29. 体は疲れきり魂も酷く疲れ眠気がそれらの目蓋を圧している。 それでも未だに法悦の、未知の、知られざる確かな意識は存在の確かなるものの中にとどまっている。 おお「主」よ、 我が助け手となりたまえ、 そして我を「愛されしもの」の至福へと連れて行きたまえ。
  30. 我は「愛されしもの」の家へと立ち寄った。 そしてそのワインは緑の翼で水の世界を飛び抜けてきた炎の様であった。
  31. 我は自然の赤い唇と完全なものの黒い唇を感じた。 小さな兄弟を可愛がる姉妹達の様に、 彼達は我を花嫁の様に飾り立てた。 彼達は我を「汝」の花嫁の部屋にすえ付けた。
  32. 「汝」の到来と共に彼達は飛び去り、 我は一人「汝」の前に。
  33. 我は「汝」の到来に恐れおののいていた、 おお我が「神」よ、 何故なら「汝」の使者は「死の星」よりも恐ろしかったから。
  34. 敷居の上には激しく光る「邪悪」な姿が、 虚無の「恐怖」が立ち、 その死者の如き目は毒の井戸の様であった。 彼が立つと、 花嫁の部屋は腐り、 空気は悪臭を放った。 彼は 「アバドン」 の殻共よりも忌まわしい歳老いたイボだらけの魚であった。
  35. 彼は我をその悪魔の触手でくるんだのだ、 然り、 8つの恐怖が我を包んだ。
  36. しかし我は「首領」の正統で香り良き聖油で清められていた。 森に住むの少年の投石器から放たれた石の如く、 我はその抱擁から滑り抜けた。
  37. 我は象牙の如く滑かで堅かったので、 恐怖は掴むことができなかった。
    そして「汝」の風の音が来た時恐怖は溶け去り、 偉大なる空虚の深淵は我が前に開かれた。
  38. 波の打ち寄せぬ永遠の海を越えて、 「汝」は「汝」の将達と「汝」の軍勢を引き連れて来たのだ、 「汝」の戦車達と御者達と槍兵達と共にその青を通り抜けて旅してきたのだ。
  39. 我が「汝」を見る前に、 「汝」はすでに我と共に居たのだ。 我は「汝」の素晴らしい槍に貫ぬかれたのだ。
  40. 我は鳥の如く雷神の矢に射抜かれたのだ。 我は盗賊の如く「庭園の主」に突き刺されたのだ。
  41. おお我が「主」よ、 血の海の上で泳ごうではないか!
  42. かの言い表しえぬ至福の下には深い汚れがある。 それは生成の汚れなのだ。
  43. 然り、 かの花は陽光の中で鮮やかに揺らめいているが、 その根は大地の暗黒の中の深みにあるのだ。
  44. 汝を賞賛するのだ、 おお美しく暗い大地よ、 汝は数え切れぬ中の百万の花の母なり。
  45. 我はまた「神」を見、 そして「彼」の顔は稲光の千倍も輝かしかった。 しかし彼の心臓の中に我は鈍く暗い「一者」、 古き者、 「彼」の子供達をむさぼり喰らう者を見たのだ。
  46. 高みと深遠の中には、 おお我が美しき者よ、 何も無い、 本当に、 全然何も無い、 全くそして完全に「汝」の喜びに似合ったものでは無い。
  47. 「光」は「光」へと道を切り開きたりて、 汚物は汚物へと道を切り開くものなり。 誇りをもって一方は他方を軽蔑せり。 しかし全てなる者にしてそれを超えた者たる「汝」ではなく、 「影達の分裂」から解放された者なり。
  48. おお、「永遠」の日よ、 「汝」の波によりて我々が作る精緻な珊瑚の上のサファイヤの隙の無い 栄光に押し入るのだ。
  49. 我等はきらめく白い砂の輪となり、 「喜びの大海」の真ん中へと散った。
  50. 光輝く花の椰子の木々を我等の島に植えるのだ。 我等はその実を食べ、 喜びを得るだろう。
  51. しかし我にとっては清めの水、 大いなる沐浴、 かの有名な深淵における魂の分解である。
  52. 我には悪徳の山羊の様な小さな息子がおり、 我が娘は羽根の生えていない鷲の雛の様だ。 彼達は泳げる様にヒレを得るであろう。
  53. 彼達が泳げる様に、 おお我が愛する者よ、 「汝」のものたる温かい蜂蜜の中へと泳ぎ出すのだ、 おお祝福されたるもの、 おお至福の少年よ!
  54. この我が心臓は自身のとぐろをむさぼり喰らう蛇に巻付かれている。
  55. 終わりの時、 おお我が愛しい人よ、 おお「宇宙」とその「主」は完全に飲み込まれてしまうのか?
  56. 否! 誰が「無限」をむさぼり喰う事のだ? 誰が「源初の悪事」を無かった事にするのだ?
  57. 「汝」は「宇宙」の屋根の上の白猫の様に鳴きにけり。 「汝」に応えるものは誰もいない。
  58. 「汝」は海の真ん中にある孤独な柱の様だ。 「汝」を見るものは誰もいない。 おお、「汝」全てを見し者よ!
  59. 汝はまさに気を失い、 汝はまさに挫折する、 汝筆記者よ、 惨めな「声」で泣いた者よ。 しかし我は汝を汝が知らぬ味のワインで満たしたのだ。
  60. それは無限の 「遠方」 で回っている古き灰色の球の人々を酔わす程のもの。 かの都市の素早い乗り手の 「槍」 に貫かれた美しい高級娼婦の血をなめる犬の如く彼達はそのワインをなめる。
  61. 我はかの砂漠の「魂」でもあり、 その砂の荒野で汝は我をもう一度探すであろう。
  62. 汝の右手には偉大なる主と器量良しの女、 左手には薄地と金糸の服を纏い、 髪には星々を乗せた女。 汝達は悪疫と邪悪の国を奥深く旅するのだ。 汝等は忘れられた愚者の都市の川で夜営し、 そこで汝等は「我に」会うのだ。
  63. そこで我は「我が」住みかを作るであろう、 あたかも結婚式の様に我は家を飾り立て清めるだろう。 そこで「完成」は達成されん。
  64. おお我が愛しい人よ、 我もまた言い表し得ぬ時の光輝を待っているのだ、 宇宙が我等の愛のきらめきの最中のガードルの様にならん時、 終わり無き「一者」に許された終わりを越えて広がるそれを。
  65. その時、 おお汝心臓よ、 蛇たる我は汝を全て食べ尽くすであろう。 然り、我は汝を全て食べ尽くすのだ。

訳注


/ Introduction / I / II/ III / IV / V /
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