Liber LXV: II


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II

  1. まさにトルコ石の柱の間の東方の玉座に座す緑の鷹の如く、 我はラピス=ラズリの山に移行した。
  2. すなわち我はデュアンを、 星の住居を訪れ、 そして大声で泣き叫ぶ声を聞いたのだ。
  3. 「おお「汝」「大地」に座す者よ! (ある「ヴェールに覆われし者」が我に語りかけた。) 汝は汝が母より偉大な者にあらず。 汝かぎり無く小さな塵に付いた染みよ!
    汝は「栄光の主」にして、薄汚い犬なり。」
  4. 身を屈め、羽を傾げ、 我は暗く輝やける住居にやってきた。 その中には形無き深淵があり、 そこで我は「嫌悪の神秘」の参加者となった。
  5. 我は「ヘビ」と「雄山羊」の死の抱擁に苦しみ、 「ケム」の恥部への忌々しい敬意を払った。
  6. その中には、 「一者」が全てになるという美徳があるのだ。
  7. 更に我は川のヴィジョンを見た。 小さなボートが浮いており、 その紫色の帆の下には黄金の女性、 「アシ」 の純金製の像があった。 また川には血が流れており、ボートは輝く鋼鉄で出来ていた。 そして、我は彼女を愛し、 更に、我がガードルを外して、自らを流れに投げ込んだ。
  8. 我は自分自身をその小さなボートにかき集め、 幾つもの昼と夜の間彼女を愛したのだ、 彼女の前で素晴らしい香を焚きながら。
  9. 然り!我は彼女に我が若さの花たるものを捧げたのだ。
  10. しかし彼女が動き出す事は無かった。 接吻だけで我は彼女を汚してしてしまい、 彼女は我の前で黒くなってしまった
  11. 我はまだ彼女を崇拝していたので、 彼女に我が若さの花たるものを捧げた。
  12. またしても変化が起こった。彼女は病に陥り、 我が前で分解してしまったのだ。 思わず自らを流れに投げ込むところであった。
  13. そして遂に約束の時がくると、 彼女の体は星々のミルクよりも白く、 その唇は沈む陽の如く赤く暖かく、 その命は真昼の太陽の様に白熱していた。
  14. そして彼女は「眠りの時代」の深淵から起き上がり、 彼女の体は我を包み込んだ。 我の全ては彼女の美の中に溶け込み、 我は喜びを得た。
  15. 川はまたしても 「アムリット」 の川となり、 そして小さなボートは肉体の戦車であって、 その帆は我を運ぶ心臓の血液だったのだ、 我を運ぶのだ。
  16. おお星々の蛇の女よ! 我が、常に我が、 「汝」を青白い純金の像から変えて来たのだ。
  17. またしても「聖なる者」が我に乗り移り、 そして我は白き白鳥が青い空間に浮かんでいるのを見た。
  18. その両翼の間に我が座ると、 アイオンは逃げていった。
  19. そして白鳥は飛んだり降りたり舞上がったり、 我々はまだ何処へ行くのか定かでなかった。
  20. 我と共に乗っていた小さな狂った童が白鳥に語りかけていわく
  21. 「無限の空間の中で浮かんだり飛んだり降りたり昇ったりしているお前は何者なの? 見て、沢山のアイオンは逃げていってしまった。 何処から来たの?何処へ行くの?」
  22. そして我は笑いながらその童をたしなめていわく 「何処からでもない!何処へ行くのでもない!」
  23. 白鳥は黙っていたが、童が答えた。 「じゃあ、もしも目差す所が無いのなら、何故この永遠の旅を?」
  24. 我は「白鳥の頭」に頭を横たえ、そして笑って言った。 「この目的の無い飛行には言い表せぬ歓喜がないか? 目的を達成しようとする輩には退屈と焦りがないか?」
  25. そして常に白鳥は黙していた。 ああ!しかし我々は無限の「深淵」の上に浮かんでいたのだ。 歓喜だ!歓喜!
    白き白鳥は常にその翼の間に汝と我を乗せて運んでくれるのだ。
  26. おお沈黙よ! おお狂喜よ! おお可視そして不可視の物事の終わりよ! それらは全て我のもの、「否」たる我の。
  27. 輝ける「神」よ! 「汝」が為に我を宝石と黄金の像に変えたまえ! それを民が投げ捨て踏みにじって塵に変えんことを! それにより「汝」の栄光を彼達に分からせ給え!
  28. さもなくば来たるべき我が来る事を市場で語らせるなかれ。 しかし「汝」の到来は一語たるべし。
  29. 「汝」未顕現の中に「汝自身」を現すべし。 秘密の場所にて男達は汝と会うであろう。 さらば「汝」彼達を打ちのめさん。
  30. 我は陽光の中で大理石の上に青ざめ悲しむ少年が横たわり、泣いているのを見た。 彼の傍らには忘れられた琵琶が。 ああ!だが彼は泣いている。
  31. その時鷲が栄光の深淵からやって来て彼を影で覆った。 影の黒さ故、最早彼は見えなくなった。
  32. しかし我は青く穏やかな空気を通して、 琵琶が元気良く謡われているのを聞いた。
  33. ああ!愛されし「一者」の伝令よ、 「汝」我を覆い隠したまえ!
  34. 汝が名は「死」、又は「恥辱」或いは「愛」かもしれぬ。
    そう、汝は我に「愛されし者」の便りをもたらす者、 汝が名は問わぬ。
  35. 「あるじ」は今何処に?」 と狂った小さな童達が叫ぶ。
    「彼」は死んだ! 「彼」は恥辱を受けた! 「彼」は結婚したのだ!そして彼達の嘲笑は世界中に響き渡るべし。
  36. されど「あるじ」 はその報酬を受け取っておるべし。
    その嘲笑を笑う者は「愛されし者」の髪の毛の縮れたらん。
  37. 見よ!「大いなる深みの深淵」を! その中で力強き海豚が力の波に脇腹を打たれている。
  38. そこには黄金の竪琴弾きもおり、 無限の旋律を奏でている。
  39. その時海豚は喜びを得、 その体を脱ぎ捨てて、 鳥になった。
  40. 竪琴弾きもまた竪琴を傍らに置き、 「パンの立笛」 で無限の旋律を奏でた。
  41. そして鳥はこの至福を強く望み、 翼を置いて森の牧神になった。
  42. 竪琴弾きもまた 「パンの立笛」 を傍らに置き、 人間の声で無限の旋律を歌った。
  43. そして牧神はうっとりとして、 ひたすらその旋律に身をまかせた。 最期に竪琴弾きは沈黙し、 そして牧神は「永遠の」原初の森の当に真ん中で 「パン」になった。
  44. 汝沈黙によってかの海豚を魅了する事は出来ぬ、 おお我が予言者よ!
  45. その時達人は至福に心を奪われ、 そして至福の彼方、 超越の超越を超えた。
  46. 彼の体もその至福と超越と名前無き究極のものの重みで震え、 よろめいた。
  47. 彼達は 「「彼」は酔っ払っている」だの 「「彼」は狂っている」だの 「「彼」は苦しんでいる」だの 「「彼」は死にそうだ」などとほざいているが、 「彼」は彼達の言う事など聞いてはいない。
  48. おお我が「主」よ、我が愛する者よ! 汝の栄光の記憶の影が全ての語りや沈黙の音楽を超えたものである時ですら、 どれだけ我は歌を作らねばならぬであろうか?
  49. 見よ!我は男なり。 小さな子供では「汝」に堪えられぬ。 そして、ご覧あれ!
  50. 我は大きな庭園に独り、 そしてある小山の側には深いほうろう硝子の輪があり、 その中で緑の服を着た、最も美しい者達が、遊んでいた。
  51. 彼らの戯れの中で、 我は「妖精の眠りの地」にまでやって来た。
    我の思考の全ては緑の服を着せられた。 それらは最も美しかった。
  52. 一晩中、 彼達は踊りそして歌った。 だが「汝」は朝なり、 おお我が愛しい人よ、 「汝」とその心臓の廻りで対になる我が蛇よ。
  53. 我は心臓、そして「汝」蛇よ。 我が側でしっかりと「汝」のとぐろを巻いておくれ、光も至福も通さぬ様に。
  54. 我が血を壊しておくれ、 月光の下でその恋人と共に疲れ果てた白きドーリア人の少女の舌の上に載った葡萄の如く。
  55. その時「終わり」を目覚めさせるのだ。 長きに渡って汝は眠り続けて来た、 おお偉大なる「神」テルミヌスよ! 長き時代に渡り汝はその都市とその街路の終わりを待っていた。
    目覚めよ「汝」!最早待つでない!
  56. いや「主」よ! そうではなくて我が「汝」の訪問を受けるのだ。 最期に待つ者は我なのだ。
  57. 予言者は山に向かって叫んだ。 「汝ここへ来たれ、我と汝が語り合える様に!」
  58. 山は動かなかった。それ故予言者は山に赴き、 山に語りかけた。 しかし予言者の足は疲れきり、 そして山は彼の声を聞かなかった。
  59. だが我が「汝」を呼び、 彼の元へ旅をしていても、 充分ではないのだ。
  60. 我は辛抱強く待った。 そして「汝」は最初から我と共にいたのだ。
  61. 我は今これを知ったのだ、 おお我が愛する者よ。 そして我々は蔓の中でのんびりと吊されている。
  62. しかし、あの彼達の予言者達、 彼達は大声で叫び自分自身を鞭打たぬばならぬ。 幾つもの道無き荒野とはてしなき大海を渡らねばならぬ。 「汝」待つことは終わりであって、始まりではない。
  63. 闇にこの書き物を覆わせよ! 筆記者は彼の道から離れよ。
  64. しかし汝と我は蔓の中でのんびりと吊されている。 彼は何者か?
  65. おお「汝」愛されし「一者」よ! 終わりはあるのか? いや、しかしながら終わりはあるのだ。 目覚めよ! 起きよ! 手足を身構えよ、 おお汝走る者よ、 汝「言葉」を幾つかの強大な都市へと運ぶのだ。 然り、強大な都市へと。

訳注


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