Liber LXV: III


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III

  1. その通りにかくあれかし! 我は深き海を通り抜け、 その海に注ぎ込む流れる水の川を通って、 「欲望無き地」へとたどり着いたのだ。
  2. そこには銀の首輪を着けた白い一角獣が居り、 その首輪の上には 「Linea viridis gyrat universa」 という格言が彫り込まれていた。
  3. その時、我、首領自身の口を通して我が元に 「アドナイ」 の言葉が到来して、いわく
    「おお、古き蛇のとぐろに包まれし心臓よ、 起きて秘儀伝受の山へと向かうのだ。」
  4. しかし我は思い出した。 然り、サンよ、 然り、テリよ、 然り、リリスよ! これら三者は古きより我を取り巻くもの。 故に彼達は一者なり。
  5. 汝美しかりし者よ、おおリリスよ、 汝蛇の女よ!
  6. 汝はしなやかで味わい良きものなりて、 汝の香りは龍涎香を混ぜた麝香のものであった。
  7. 汝近くに寄りそのとぐろをもって心臓に寄り添い給え、 さればそれは全ての春の喜びの如きものなり。
  8. だが我は汝の内にある種の汚れを見るのだ、 たとえ我がその内に喜びを見い出していようとも。
  9. 我は汝の内に汝の父たるかの猿の汚れを、 汝の祖父たる「どろどろした盲目の線虫」の汚れを見るのだ。
  10. 我は「未来の水晶球」を覗き込み、 そして汝の「終わり」の恐怖を見た。
  11. 更に、我は「過去」の時を破壊し、 「来たるべき」時をも ― 我は「砂時計の力」を持たぬのか?
  12. しかし当にその時の中に我は堕落を見たのだ。
  13. そして我は言った。 「おお我が愛する者よ、 おお「主アドナイ」よ、 我はかの蛇のとぐろを解くべく汝に祈らん。」
  14. しかし彼女は私の上で堅く閉じられ、 我が力は最初の段階で留められた。
  15. 我は「象の神」、 すなわち障害を破壊せしめる「始まりの主」にも祈った。
  16. それらの神々はすぐさま素早く我を助けに来た。 我は彼達を見、我自ら彼達に加わり、 そして彼達の広大さの中に我は失われた。
  17. それから我自身が 「宇宙」をめぐる 「無限のエメラルドの輪」 に取り囲まれているのを見た。
  18. おお「エメラルドのヘビ」よ、 「汝」に「過去」の時は無く、 「来たるべき」時も無い。 当に「汝」は否たるものなり。
  19. 「汝」はあらゆる味も触り心地も超えた美味を持ち、 栄誉をもって見られる事の無き者なりて、 「汝」の声は「語り」と「沈黙」と「沈黙の内の語り」を超えており、 「汝」の香りは純粋な龍涎香のものでありて、 それは純金の中の純金ですら釣り合わぬ価値を持つものなり。
  20. また「汝」のとぐろは無限の大きさを持ち、 「汝」が取り巻く「心臓」は「宇宙の心臓」なのだ。
  21. 「我」と、「我に」、そして「我がもの」琵琶と共に偉大なる都市の市場の中に座っていた、かのスミレと薔薇の都市に。
  22. 夜の帳が降り、 琵琶達の音楽は静まった。
  23. 嵐が起こり、 琵琶達の音楽は静まった。
  24. 時が経ち、 琵琶達の音楽は静まった。
  25. だが「汝」は「永遠」と「空間」、 「汝」は「物質」と「運動」、 そして「汝」はそれらのものの否定なり。
  26. なぜなら「汝」の象徴は存在しないからだ。
  27. もしも我が山々よ来たれ!と言えば、 神聖なる水々が我が言葉から流れ出ん。 しかし汝は水を超えた「水」なのだ。
  28. 赤い三角形の心臓が「汝」の廟にすえられていた。 なぜなら神官達が廟も神も同様に軽蔑しているからだ。
  29. しかしその間ずっと「汝」はその中に隠されていたのだ、 「沈黙の主」が蓮のつぼみの中に隠れて居るが如く。
  30. 汝はセベックアサール に立ち向かうワニにして、 汝はマティ、「深みの殺戮者」なり。 汝はテュフォン、 「元素霊達の怒り」なりて、 おお、「汝」彼達の「結集」と「凝集」の中にあり、 彼達の「死」と彼達の「崩壊」 の中にある「力」を超越する者なり。 汝は「大蛇」、 あらゆるものの終わりにまつわる恐るべき蛇なり!
  31. 我は我にあらゆる方法で三度振り返り、 そして常に最期には「汝」たどり着いたのだ。
  32. 多くの物を我は中間と始めに見たが、 我はそれ以上それらを見る事無く、我は「汝」を見たのだ。
  33. 汝来たれ、おお愛されし「一者」よ、 おお「宇宙の主たる神」よ、 おお「広大なる者」よ、 おお「取るに足らぬ者」よ! 我は汝に愛されし者。
  34. 一日中我は「汝」の事を喜び歌い、 一晩中我は「汝」の歌の中に喜びを見い出すのだ。
  35. そうせぬ日も夜も無い。
  36. 汝は日も夜も超えた者なり。 我は「汝そのもの」なり、 おお我が「造り手」よ、「あるじ」よ、「友」よ!
  37. 我は「知られざる者」の膝の上に座っている赤い小さな犬の様だ。
  38. 汝は我を大いなる喜びへと導いてくれた。 汝は食べ物として「汝」の肉体を、 酔いをもたらさんとして「汝」の血を我に与えてくれた。
  39. 汝は我が魂の内にある「永遠」の牙を噛みつかせ、 「その無限の毒」は我を完全に焼き尽したり。
  40. 我はイタリアの甘美な悪魔の様に変った、 擦り切れる程接吻を求めてむさぼられた頬を持つ端正な力強き女に。 彼女は多くの宮殿で売春婦を演じた。 彼女は彼女の体を獣に与えた。
  41. 彼女はヒキガエルの強き毒をもって彼女の親族を殺め、 多くのムチによって打たれた。
  42. 彼女は「車輪」の上で引き裂かれた。 死刑執行人の手によって彼女は車輪にくくりつけられた。
  43. 彼女の上に迸る水が放たれた。彼女は苛酷な拷問にもがいた。
  44. 水の重みによって彼女は破裂してバラバラになった。 彼女は恐ろしい「海」に沈んだ。
  45. そう我は、おお「アドナイ」よ、我が主よ、 それらは 「汝」の領海たる耐え難き「本質」 の水なのだ。
  46. そう我は、おお「アドナイ」よ、我が愛する者よ、 そして「汝」は我を完全にバラバラに破裂させた。
  47. 流れる血の様に我は山々の上にこぼれ落ち、 「散逸の大烏達」が我を完全に運び去ってしまった。
  48. 故に「八番目」の深淵を守る封印は保たれ、 それ故広大な海はヴェイルの様であり、 故にあらゆるものの引き裂かれた破片があるのだ。
  49. 然り、 「汝」もまたまさしく魔法使いの泉の冷ややかで静かな水なり。 我は「汝」に浸り、そして「汝」の静けさの中に我は失われたのだ。
  50. 美しい腕を持つ勇敢な少年の如く入ったものは、 乙女の如く前方へと進むのだ。 まるで完全を求める小さな子供の如くに。
  51. おお「汝」光と喜びたる者よ、 星々のミルクの大海へと我を奪い去りたまえ!
  52. おお「汝」光を伝えし母の「息子」よ、 「汝」の名は祝福され、 そして「汝の名」の「名前」は時代を超えて祝福されるのだ!
  53. 見よ! 我は「創造の源」に止まる蝶なり、 死して「汝」の無限の流れに落ちるその時より前に死なせたまえ!
  54. また、星々の小川は常に粛々とかの住居へと流れたり。 我を「ヌイトの懐」へと運び去りたまえ!
  55. これぞ「メム」の水の世界、苦いが甘くなる水なのだ。汝は美しくそして苦き者、おお黄金に輝けるものよ、 おお我が主アドナイよ、 おお汝「深遠のサファイア」よ!
  56. 我は「汝」に従い、そして「死」の水はたゆみなく我と闘うのだ。 我は「死」と「生」を超えてその「水」を通るのだ。
  57. 愚か者に何と答えれば良いのか? 彼が「汝の本質」にたどり着く道は無いのだ。
  58. しかし我は「魔術師の演技」を気に止めぬ「愚者」なり。 「神秘の女性」にむなしく導びかれたる我は、 「愛」や「力」や「崇拝」のきずなを断ってしまった。
  59. 故に「鷲」「人間」と、 そして悪行踊る絞首台正しさの果実と一体になるのだ。
  60. 我は、おお我が愛しい人よ、黒く輝ける水に潜り、 そして限りなく貴重な黒真珠の如き「汝」をもぎ取ったのだ。
  61. 我は全体の深淵に降り、 そして「無」 を装った見せかけの下の真中にある「汝」を見つけたのだ。
  62. しかし「汝」が「最期」たる時は、 「汝」は「次」でもあり、 そして「次」には我はまさに「汝」を民衆に示すのだ。
  63. 「汝」を常に望みし彼達は「汝」を、 まさに彼達の「欲望」の「最期」まで得るのだ。
  64. 栄えあれ、栄えあれ、栄えあれ「汝」に、 おお我が天上の恋人よ、おお我自身の「自己」よ。
  65. 我は「汝」を「我」と「汝」に等しく見いだしたから、 違いは何も無い。 おお我が美しきものよ、 我が求める「一者」よ。 「一者」と「多者」の中に、我は「汝」を見い出したのだ、 然り、我は「汝」を見い出したのだ。

訳注


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