魔術とは何か?

by Hocuspocus

序論

魔術とは何か?
非常に答えるのが難しい質問である。 ここは、 私がこのページで扱う 「魔術」 について多少なりとも説明を行う事で、 その解答の代わりとさせていただく。

「魔術」 という言葉は英語の 「Magic」 の訳語である。 辞書を引くと 「奇術」だとか「不思議な力」 という意味が書いてある。 ここでは後者を扱う事になる。 要するに 「西洋に伝わる怪しげな術」 を魔術と呼ぶ訳だが、 そういった術を全て解説するにはこのプロバイダの容量では足りない程の文書が必要になるし、 第一私にはそうする力量も時間も無い。

ところで、 19世紀の末に、 英国のオカルト趣味のオジサン達がこれらの一部をまとめ上げて、 これまでのモノよりも比較的分かり易く使い易い術の体系を作ってくれた。 それが 「黄金の夜明け団」 の魔術の体系である。 この黄金の夜明け団の魔術は、 一部の人達の手によって基本となる文書が公に出版された為、 現在では世界中に広まっている。
ここで扱うのは主にその黄金の夜明け団の魔術である。

従って、 このページでは 「魔術」 と言えば黄金の夜明け団及びそれに関連する流派の体系及び術等を指すものとする。 また、 歴史的に見て黄金の夜明け団に多大な影響を与えたと思われる流派又は魔術師の術、 例えばエリザベス一世時代の英国のオカルト学者ジョン・ディーや、 19世紀フランスの著名な魔術師エリファス・レヴィの行った事等もその範疇に入れておく事としよう。

ところで、 上記のジョン・ディーだが、 現在では相棒の霊媒エドワード・ケリーと共に妙ちきりんな降霊術を行った怪しげなオヤジとしてしか認識されていない事が多い。 しかし、 彼は実は当時のユークリッド幾何学と航海術の権威、 つまりヨーロッパ最高の文化人の一人だったのだ。 その魔術研究が災いして一時期英国を追われたが、 魔術研究などしていなければ一生安泰な生活を送れたかもしれない。
一体、何が彼を怪しげな魔術の世界に狩り立てたのか?

実は彼の様にオカルトに興味を持つ学者は、 社会&宗教的制約にもかかわらず、 当時はそれ程珍しい存在ではなかったのだ。
元々ヨーロッパにおいては、 大学が基督教神学の教育研究を主目的として作られたものである事を見ても分かる通り、 基督教神学が全ての学問の基礎である。
ところが14世紀辺りから、 紀元1、2世紀辺りにギリシャ等の地中海周辺で発達したヘレニズム文化が、 イスラム世界における発展を経由してヨーロッパに流れ込んで来たのである。 この流れが所謂ルネッサンスを生むのであるが、 その中に占星術や錬金術や魔術といった 「実践」 を重んじる秘教的学問が入っていたのである。 それら秘教的学問は錬金術の伝説の開祖の名をとって 「ヘルメス学」 と総称される。
近代物理学の祖であるニュートンが錬金術マニアであり、 その重力の理論と彼の神学的信念が結びついている事は有名な話であるが、 当時の知識人達にとってヘルメス学は基督教会のドグマによらずに 「神」 を探求する為の手段であったのだ。

その後、 錬金術が化学の基礎となった様に、 学者達は 「神」や「霊」 といった存在のはっきりしないモノを学問から切り捨てて行く事によって近代科学を創造していった。
だが、 その曖昧なモノの中に隠れている 「人間の魂」 に対しては、 最近になってようやく科学の光が当てられ始めたばかりである。
我々の魔術は、 近代科学が当初切り捨て、 最近ようやく踏み込み始めたこの未開拓の領域にある。

従って古来よりのヘルメス学こそが、 我々現代において魔術を行う者と古代の賢人達を結び付ける糸である。
黄金の夜明け団の魔術師達もヘルメス学の伝統を受け継ぎ、 実践によってその理解を深めていった。
そして我々現代の魔術に関わる者も、 実践を重んじるヘルメス学の伝統によって彼達古代の賢人達の精神を受け継ぎ、 更なる領域へと進んで行くのだ。

以上をまとめると、 我々がここで扱う魔術は、 古き時代の賢者達の学であるヘルメス学の伝統を受け継いだ 「黄金の夜明け団の魔術」 である、 という事である。

(この問題についての解説として、 日本を代表する魔術結社であるI.:O.:S.:による 「魔術とは何か」、 及び同じく日本を代表する魔術結社であるO.:H.:による 「魔術とはなにか」、 は必見である。 こんな駄文よりずーっとまとまっていて分かり易い。 また、 黄金の夜明け団については「黄金の夜明け」研究会のページを参照の事。)

(次章に続く)


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