フランツ・バードンについてどう思う?


クララおばさん、こんにちは! フランツ・バードンの体系 (カバラとか) について教えてくれない? 僕の質問で貴方が夜眠れずに爪を噛んだりしていないといいけど。

W市、ギュンサー・Fより

ギュンサーさん、こんにちは。

私のマニキュアの心配をしてくれてありがとう。 (何故貴方の質問の所為で私の足の爪が巻き爪になっていないか心配してくれなかったのかしら。) でも心配しないで。 私の50年以上の魔術人生の中でこれよりもっと大変なことを経験してるから。 ここからは真面目に。 勿論 フランツ・バードン と彼の魔術について思うところを客観的には語れないけど、 多分貴方は私の個人的意見を求めてますよね。 そう、 私の意見はとっても雑多な意見なのです。。 フラター・U∴D∴はバードンの方法を教条主義だと批判するのが好きで、 お陰でバードンの信者に 「青臭い三文ライター」 だの 「山師」 だの言い返されたけど、 それは他の誰かの名声を敢えて踏みにじった人達全てが辿る宿命ですよね。 そうなるのはバードンが今でも重要であることの証でもあるし、 それは単なる誤解の結果であるとはとても言えないものなのです。

でも何故バードンはとても偉大であると同時に賛否両論の多い人なのでしょうか? それを理解しようと思ったら、 時を遡って彼の時代の背景を踏まえてこの魔術師を眺めないといけません。 彼はまぎれもなく包括的で密度の濃い魔術体系を私たちに与えてくれました。 その上、 彼は明確で理解しやすい文章を書く為に大変な骨折りをしてくれたのです − 実際にそれで多くの人々から感謝されています。

バードンの著作が最初に出版された時に戻りましょう (覚えてるわよ…1950年代の初めごろで、 私達はとにかく良い魔術の文献に飢えていたの)。 これらの著作は本当に眩しい光を地平線にもたらしてくれました。 それらを読むことで私たちは、 あらゆるものを様々な ヘンテコな情報源からかき集めなきゃならないという苦労から救われたのです。 更にバードンは私たちにあらゆるものが全て説明出来るという 「高位階の参入者」 の伝説を示したのです。 この 「あらゆるもの」 がそれほど深みのあるものではなかったという事実は、 彼が示す資料の山の所為で見落とされ、 殆どの人はその 「説明」 の多くが実のところ 「言い換え」 のようなものである事に気付きませんでした。 どのみち、 貴方がいつもバードンに期待していることはコレです。 他の魔術の本の真面目な著者達と違って、 バードンは善悪、 正誤をハッキリ言い切ってしまうのです (バードンは今でも真面目な著者と見なすことは出来ますが)。

しかし、 時が経って私たちが抜け目なくなってくると、 ハッキリした問いに対しては単なる抜け目のない答えが返ってくるか、 或いは全く質問をはぐらかしている、 ということが判ってきたので、 私たちはますます疑い深くかつ批判的になってきました。 それは彼の体系が役に立たないからではありません − それは多くの人々にとって本当に役に立つもので、 その点については、 大抵は凄い効果を上げるのです。 しかし詰まるところ、 それは自己完結的で密度の高い魔術体系の全てに言えることなのです。 かいつまんで説明しましょう。 バードンは特に良質な魔術への手ほどきを求めている初心者にとてもぴったりです。しかし残念ながら、 バードンを徹底的に信じることによって 初心者を (永久ではないにせよ) 長い間初心者のままにさせてしまうことにもなるのです。 定期的に警告と忠告を繰り返すことと、 一つ一つは正しいけれども全体としてみると非現実的で不必要な訓練の規則を与えることで、 バードンは初心者をそのようにさせてしまうのです。 彼の訓練体系の最初の段階だけでゆうに10年から13年は掛かりますし、 その段階ですら実際の魔術からは程遠いのです。 彼の訓練の幾つかは素晴らしいのですが、 訓練期間に関する注釈を無視すれば、 という条件付きでの話です。

でも個人的には、 バードンの馬鹿げた家父長的態度が好きになれません。 彼がその一生において偉大なる業績を挙げたことは疑うべくもないことですが、 あの アレイスター・クロウリー の輝かしい知性やあの オースチン・オスマン・スペア のゾッとするような強烈さと妥協の無い独自性に比べれば、 バードンは単なる小さな灯火にすぎません。 彼は如何なる 「霊的な量子跳躍」 も成し遂げていませんし、 彼の先生の ラー・オミル・クインチェル にすら及ばなかったのです。 バードンは文献の収集家で編集者であり、 彼自身のヴィジョンを他の人達の為に綴ることを望んだ生まれつきの本の虫だったのです − 少なくともドイツ語圏においては、 彼はかなり長い間成功を収めました。

しかし、 現代の初心者魔術師にとってバードンの教条主義はしばしば破滅をもたらすものになります。 (前に述べた他の魔術師とは逆に) 彼の本は酷く時代遅れだ、 とさえ言えるかもしれません。 バードンは必要の無い規則を定め、 実際には存在しない制限を指摘し、 励ましと慰めの言葉の方がより効果的なところで脅しをかけるのです。 バードンの言葉を読んでいると、 実は彼は生徒が成長していくことには興味がない、 という印象を持ってしまうのです。 それどころか、 バードンは彼自身の栄光に浸ることにより関心があるように見えます。 確かに良い魔術師は皆、 自画自賛の傾向があります。 どのみち、それは (必ずしも成熟している訳ではありませんが) 強い自我を持っている人には自然なことなのです。 しかしバードンには人として読者には近寄り難いものがあります。 それどころか、 道徳的説教と偏見によってバードンの個人的側面は脇に追いやられ、 曖昧な仄めかし以外にバードン自身の実践については決して語らないのです。

このまま幾らでも続ける事ができるけど、 全てを忘れて、 結局バードンは敬意を持って引退を見送るべき有名人です、 と言うだけにしておきます。 どのみち、 壁の表面を思い切り引っ掻くのなら、 壁全体が崩れ落ちてくることに驚かない…

打ち身と痣だらけの

クララおばさんより


訳注


訳者の弁明

Notes in English


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